シリコン単電子トランジスタ
数nm(nm:10億分の1m)台の微小なシリコン島状の導体(シリコン島)が,トンネル障壁という特殊な構造を間にして両側の電極で挟まれた構成を基本としている(図)。
この微小シリコン島とトンネル障壁の形成には,まずNTT独自のSIMOX技術を用いてシリコンの薄膜をつくっておき,そこからLSI微細加工技術により細いシリコンの線を切り出す。その後,NTT独自技術である「シリコンのパターン依存酸化技術」を駆使して,シリコン細線にトンネル障壁と同じ働きをする「くびれ」を付ける工程で行う。パターン依存酸化技術は,シリコン細線を高温の酸素によって酸化したときに,細線の両端では酸化が促進され,中央部では酸化が抑制されるという現象を利用したもの。
単電子素子は,極めて小さい伝導体の島とトンネル障壁から構成される。1個の電子で動作するという魅力的な素子でありながら,これまで動作環境温度が絶対温度4K(-269℃)以下という極低温に限られていたため,主に物理研究の対象と見なされていた。しかし,1993年以来,常温で,しかも現在のLSIの材料でもあるシリコンを用いた単電子素子が相次いで報告され,一躍脚光を浴びるようになり,研究所では1994年にシリコン単電子トランジスタの開発に成功した。
単電子トランジスタは,現在の主流素子であるMOSトランジスタと同様に,ソース電極,ドレイン電極間を流れる電流をゲート電極で制御するという3端子素子。
ソースとドレインとの中間に,それぞれトンネル障壁を介してつながった極めて微小なシリコン島があるのが構造上の特徴である。
◆ 《トンネル障壁》
極めて薄い絶縁性物質で,量子力学のトンネル効果により電子が通過できるようになったもの。
◆ 《MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタ》
金属・酸化膜・半導体の3層構造で構成されるトランジスタで,現在世の中で最も広く用いられているもの。